2007年10月06日

Dexter Gordon: 'Round Midnight (DVD)

Round Midnight Movie

このブログ(本家ブログ)は "Wordpress" というプログラムを使っています。これはオープン・ソースでダウンロード自由、ただし自己責任でというプログラムなのですが、なかなか使い勝手がいいので "Movable Type" から乗り換えたわけです。乗り換えの理由の一つ、というよりも決定的だったのが、管理画面で "Hello, Dolly" の歌詞が一節ずつ出てくるという仕様でした。正確には仕様というより、標準プラグインにこの "Hello, Dolly" が含まれていて、「ジャズ・ファンとしてここは乗り換えずにはおれまい」とばかりに乗り換えたわけです。今回、その "Wordpress" が大幅にヴァージョン・アップして2.3になったのですが、そのプログラムのコード・ネームが "Dexter Gordon"!どう見てもジャズ・ファンが一枚も二枚も噛んでいるプログラムということが分かります。このブログも2.3にヴァージョンアップしたので、記念(というほど記念すべきことでもないですが)にデク主演の映画、『ラウンド・ミッドナイト』について書こうと思います。

映画『ラウンド・ミッドナイト』。ベルトラン・タベルニエ監督。ジャズ・ピアニストのバド・パウエルとフランス人フランシス・ボードラスとの交流を下敷きにした物語。ピアニストだと絵面にインパクトがないために、主人公はテナー奏者に変更。さらにテナー奏者つながりでレスター・ヤングのキャラクターを付け加えられた主人公デイル・ターナーを演じるのがデクスター・ゴードン。フランシス・ボードラス役はフランソワ・クリューゼ。音楽の総監督で自信もエディー役で出演しているのがハービー・ハンコック。

時代は50年代から60年代にかけて。舞台はパリ。ニューヨークからパリにやってきたジャズの巨人デイル・ターナーがクラブ・ブルーノートで演奏をしていると、土砂降りの雨の中、ずぶ濡れになりながら戸口のところで耳を傾けている男がいる。フランシスだ。イラストレーターだがほとんど仕事にありつけず、クラブに入るお金すらないのだ。何回目かのライブでふとしたことから二人は知り合いになる。しかし、ギャラを直接もらうことすら許されず、お客の置いていったお金を拝借しては勝手に飲んで酔いつぶれ病院に担ぎ込まれ、ることを繰り返すデイルを見てフランシスは決心する。「このテナーの巨人をうちに引き取り、マネージメントをやろう」と。フランシスの献身もあってデイルはギャラを直接受け取っても飲みつぶれるようなことはなくなり、順風満帆の未来が約束されているようだった。しかし、フランシスの田舎に共に帰ったデイルは、ニューヨークに戻ると言い出す。デイルと共にニューヨークへ行ったフランシスは、しかしデイルや他のミュージシャンの周りをうろつく麻薬の売人の姿を見て、「明日パリに帰ろう。空港に来てくれ」と言い残す。しかし当日空港にデイルの姿はなく、フランシスは一人パリに帰る。ある日フランシスのもとに電報が届く。それはデイルの死を告げるものであった。

このようなあらすじで、時代は当然ハードバップ全盛期です。にもかかわらず、ハービーの音楽は今の音楽なんです。途中でゲスト参加するショーターの "Rhythm-A-Ning" のアドリブ・ラインなんて50年代のハード・バップでは決して出てこないようなライン。仮に50年代の音楽の焼き直しだったとしたら、映画的には成功しても音楽的にはつまらない結果になっていたんじゃないかと思います。そして、いまやニュー・スタンダードの地位を確保した名曲 "Chan's Song"。特にニューヨークに戻って出演したクラブでの演奏はとてもよい。フルの演奏ではないんですが、デクのイントロからフレディー・ハバードのテーマにかけてフィーチャーされていてとても美しい。このテイクがサントラ盤にもブルーノート盤にも入っていないのはとても残念です。しかし、使われている1曲1曲が入念な作品であるため、音楽だけでも充分に楽しめる作りになっています。

音楽的な充実感と、聖林映画にはない芸術性の高さでとても素晴らしい映画に仕上がっています。

posted by G坂 at 20:49| Comment(0) | TrackBack(0) | jazz | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月03日

Miles Davis and the Modern Jazz Giants (Prestige)

Miles Davis and the Modern Jazz Giants

『バグス・グルーヴ』と対になっているアルバムが、この Miles Davis & the Modern Jazz Giants です。カタカナ打ちするとあまりにも長くなるので英語で打ちました。こちらは件の「クリスマス・セッション(1954年12月24日)」に加えて、1曲だけ "'Round Midnight" が1956年10月26日のセッションです。メンバーはクリスマス・セッションは例によってマイルス、ミルト・ジャクソン(vib)、モンク(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds)、一方56年のセッションはマイルスのほかコルトレーン(ts)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)の黄金クインテットによる「マラソン・セッション」の1曲です。

伝説となっている事件が起きたのは、このアルバムの1曲目 "The Man I Love" でのことです。その伝説とは「俺のバックでピアノを弾くな」というマイルスの発言に怒ったモンクが、この曲のソロの途中で弾くのを止めてしまったというもの。しかし、真相は単に音楽的な理由からバッキングを断り、モンクもそうしたというだけだとマイルスは語っています。さらに弾くのを止めてしまった事に関しては、モンクがリハーサルと勘違いしたという説が言われていますが、こちらはどうでしょう?この曲はすでにテイク2で、テイク1は出だしにごたついていたので、これをリハーサルと勘違いするというのは少々強引な解釈だと思います。ただ、モンクの場合『モンクス・ミュージック』でもコルトレーンの番でもないのに、「コルトレーン、コルトレーン!」と叫んで、つられたアート・ブレイキーがとちったりしていますから、勝手に思い込むようなところがあるのかもしれません。それにしても、ミルトのイントロから感動的なマイルスのテーマ吹奏、テンポアップしてミルトの畢生のソロ、テーマを倍に伸ばしたフレーズを弾いた後モンクが弾くのをやめて延々とリズムが刻み続けられる中、マイルスがペットで「弾き続けろ」と吹くやいなや、はじかれたようにモンクが複雑なソロを展開し、その最後のリフを受けてマイルスがソロに入り、オープンからミュートへとサウンドを変えて雰囲気を鮮やかに転回するあたりに、尋常でない緊張感を感じるため喧嘩説に説得力をもたらしているわけです。

2曲目の "Swing Spring" はリズム・チェンジの曲です。普通リズム・チェンジは急速調でアドリブの妙技を自慢する題材になることが多いのですが、ここではテンポを遅めにして、アドリブもメロディーの彩を楽しめる作品になっています。マイルスのソロ、ミルトのソロと続き、マイルスの後ソロでは珍しく "When Lights Are Low" のメロディーを引用したりしています。モンクのソロではBメロのところでビ・バップ初期に聴かれたようなバップバップしたメロディーが出てきて微笑ましい。再びミルトがソロを取りそのままマイルスとユニゾンでテーマを弾いて終わり。

3曲目の "'Round Midnight" は上にも書いたように56年10月26日、マラソン・セッションからのテイクです。例のヴァンプと合奏もあり、コロムビア盤に引けを取らない名演ですが、それもそのはずでコロムビア盤よりも後の録音なのですね。

4曲目 "Bemsha Swing" はモンク(とデンジル・ベスト)の曲で、唯一マイルスのバックでモンクがピアノを弾いているもの。ここでのバッキングは実に丁寧で、マイルスとのインタープレイのようにも聴こえるので、喧嘩状態というのはやはりガセでしょうね。ソロはミルト、そしてモンクと続きマイルスとミルトの4バース・チェンジを経てテーマに戻ります。

5曲目の "The Man I Love" (take 1)は、ミルトのイントロでごたついてやり直し、マイルスのテーマでも、モンクが急に強い音を出してマイルスが引いたようなところがあったりして、なんとなく変な雰囲気です。もっとも、ソロに入るとミルトもモンクもマイルスも素晴らしいソロを取っています。こちらのマイルスはオープンで吹き続ける分平板な印象で、やはりtake 2の緊張感には敵いません。

マイルスがぐったりと椅子に座り込むほど疲れるのは、「ザ・マン・アイ・ラブ」のようなバラードを卵の殻の上を歩くような細心さで演奏した時だといわれます。確かに、このアルバムの1曲目に聴かれるようなマイルスのプレイは、その緊張感と繊細さで耳を傾けずにはいられません。

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2007年09月29日

Miles Davis: Bag's Groove (Prestige)

Bags Groove

「バグス・グルーヴ」という、シンプルさがとりえの何の変哲もないFのブルースが、今日も明日もどこかのセッションの口開けブルースで演奏され、洛陽の紙価を高めたのはおそらくこのアルバムの演奏によるものでしょう。まあ、「洛陽の紙価を高める」というフレーズを一度は使ってみたくて、敢えてこんなことを言い出したのですが、実際この曲のアドリブで聴かれるマイルスのフレーズこそ、一度はどこかで使ってみたいようなフレーズに溢れています。もしこの演奏なかりせば、「バグス・グルーヴ」はMJQのレパートリーのブルースの一つで終わってしまったでしょう。

アルバム『バグス・グルーヴ』は1954年12月24日のクリスマス・イブに吹き込まれたことから、「マイルスのクリスマス・セッション」と呼ばれる歴史的に有名なセッションが含まれたアルバムで、『マイルス・デイビス・アンド・ザ・モダンジャズ・ジャイアンツ』という長々しく禍々しい名前のアルバムと対になっています。この2枚のアルバムに収められた「クリスマスセッション」が有名な理由は、これが「ケンカ・セッション」であったという口裂け女も真っ青の都市伝説に基づいています。つまり、「俺のバックでピアノを弾くな!」といつもの通り居丈高に言ったマイルスにカチンと来たモンクが、文句を言わずに「ザ・マン・アイ・ラブ」(『モダンジャズ・ジャイアンツ』に収録)で弾くのを止めてしまい、焦ったリズムセクションのざわめきや「早く弾けぇー」と命ずるマイルスのペットが入っているという伝説です。近年、マイルスの自伝が出版されたりしてこれが文字通り「伝説」で事実と違うことは明らかとなりました。しかし、サッチモが歌詞の紙を落としたからスキャットが生まれたという伝説と同じで、これは「喧嘩セッション」のほうが納まりがよいような気がします。モノゴトはこれ「詩と真実」ですから。クリスマス・セッションのメンバーはマイルス(tp)、ミルト・ジャクソン(vib)、セロニアス・モンク(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds)です。

都市伝説の視点で言うと、本作『バグス・グルーヴ』の1曲目でタイトル曲の「バグス・グルーヴ」(take 1)は、喧嘩こそ発生していないものの、マイルスとモンクの確執による異常に高いテンションの中生まれたたぐい稀なる名作ということになりますが、その視点を取り去ってもこれは実に深い味のある名作です。まずマイルスと作曲者のミルト・ジャクソン(vib)がユニゾンでテーマを奏でます。その後に出てくるマイルスの抑制されたブルース・プレイ。ラインの狙いというかフレージングは『ウォーキン』に聴くブルース・プレイと同じですが、『ウォーキン』に比べると格段に抑制的で「少ない音符で最大の効果」を発揮するマイルスの特徴が見えはじめています。

続くミルトのソロは、作曲者ということを差し引いても絢爛たるソロで、絢爛過ぎてこれがヴァイブでなく管楽器だったら、かなり粘っこいフレージングになっていることでしょう。クールなヴァイブの音色だからこそ成り立つような、絢爛たるブルースです。

モンクのソロは、ドイツ人批評家ヨアヒム・ベーレンが「歴史上もっとも構成力を持ったソロ」と言ったそうですが、ドイツ人が「構造的だ」などという場合は、たいてい「スイングしていない」の言いかえではないのですかね? 8) 前のフレーズが後のフレーズに論理的に発展していくということなのかも知れませんが、モンクの特色は強く出たソロではあります。

再び出るマイルスのソロがまた素晴らしい。一体何度この演奏を聴き返したことでしょう。マイルスの以前の記事でも書いたと思いますが、マイルスの場合、ソロが一巡してもう一回取るアドリブが凄くよい。抑えたマイルス→絢爛たるミルト→奇妙なモンク、と来て再びソロを取ったマイルスが、短い小節数の中で起承転結を考えた素晴らしいソロを取ります。

2曲目は、同じ「バグス・グルーヴ」のテイク2。1曲目よりも緊張感が欠けているのですが、マイルスのアドリブを聴くと面白いことが分かります。それは、マイルスという人は大きなラインを予め描いておいてそれに沿ってアドリブを展開する人だった。したがって、テイク1も2もアドリブ全体の構成は似通っていて、各部のフレージングにいくらかの違いがあるということです。ミルトのソロはこちらのほうがさらにタメが効いて粘っこくなっていますが、大きなラインは似ています。モンクはテイク1とは全く違ったアプローチで弾いていてストライド・ピアノなども繰り出していて、私としてはこちらのソロのほうが好きです。

3曲目からは54年の6月29日のセッションに変わります。メンバーはモンクがホレス・シルバーになった他、ロリンズが加わります。こちらのセッションも名手ぞろいなので手堅い演奏になっています。"Airegin", "Oleo", "Doxy" はどれもロリンズの曲で、いずれもいわゆるジャズ曲(ジャズ・スタンダード)になって現在でもよく演奏される曲ですが、ここにその原点があります。

5曲目、7曲目に2つのテイクを配するスタンダードの "But Not for Me" はチェット・ベイカーの歌が有名ですが、それぞれテンポを変えて全く違うアプローチをしているところに興味を惹かれます。この曲の解釈としてはどちらも極めつけ。必聴です。

喧嘩セッションという伝説はしょせん都市伝説ですが、このセッションもまた伝説的なセッションということができます。

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2007年09月27日

Thelonious Monk: Thelonious Monk Trio (Prestige)

monk trio

セロニアス・モンクの場合、バド・パウエルとは違ってピアノ・トリオの作品は驚くほど少ない。管を入れて分厚いハーモニーを出したほうがモンクの世界をより正確に描けるというのもあるのでしょうが、より大きな理由として、モンクはハーレム・ストライド・ピアニストの流れを汲んでいて、本質的にはソロ・ピアニスト兼作曲家だからだと思います。初期モンクのピアノ・トリオは3枚ほどで、1枚がこの『セロニアス・モンク・トリオ』、もう1枚が、『プレイズ・デューク・エリントン』(Riverside)、残りの1枚が『ザ・ユニーク』(riverside)です。後者2枚がそれぞれ「エリントン集」「スタンダード集」という性格なのにたいして、本作はモンクのオリジナルがメインとなっていて丸々1枚トリオで固めた(1曲ソロ・ピアノがありますが)作品としては最初のものです。

録音は1952年10月と12月セッション、そして1954年9月のセッション。メンバーは52年10月がゲイリー・マップ(b)とアート・ブレイキー(ds)、12月はドラマーがマックス・ローチに代わります。54年のセッションはパーシー・ヒース(b)とブレイキー。しかし、この疎らぶりはどうでしょう?一説には、「モンクはボブ・ワインストック(プレスティッジの社長)に飼い殺しにされていた」と言われていて、仕事が極めて少なかった。さらに、バドの罪をかぶるような形で麻薬所持の罪を着せられ有罪となり、あの悪名高き「キャバレー・カード」を取り上げられたため、クラブへの出演もままならなくなった。そんな時代の演奏なので、一種の開き直りというか、何ものにも媚び諂わず、哄笑すら聴こえてくるような演奏になっていますが、そこがまた魅力でもあります。

1曲目 "Little Rootier Tootie" はモンクのオリジナル曲。それにしても、テーマに聴かれる甲高い音。ホイッスルを模したものだそうですが、一種のシニシズムが感じられるような曲想です。アドリブに入るといきなりモンクの世界。アート・ブレイキーのドラミングはモンクの間を上手く埋めながら音楽を推進させています。2曲目の "Sweet and Lovely" は甘いスタンダードですが、テーマに差し挟む不協和音がその甘さを排除して、モンクの独自性を出しています。ソロに入ってダブルタイムになったあたりで、モンクのルーツであるストライド・ピアノや目くるめくピアノの技法が遺憾なく発揮されます。このピアノを聴いても、まだ「モンクは下手だ」という人がいたら、耳が逆さまについてるんだと思います :P 続く3曲目 "Bye-Ya" はラテン・リズムを伴ったモンク曲。モンクのプレイに即座に対応するブレイキーが光る1曲です。4曲目 "Monk's Dream" はモンクが見た悪夢を模したと言われていますが、サビのところが面白いメロディーをもった曲です。ここまでの4曲が52年の10月セッション。

5曲目 "Trinkle Tinkle" からは12月のセッションになり、ドラマーがローチになります。曲名から分かるとおりキラキラした感じの曲想を持った複雑なナンバーです。6曲目は "These Foolish Things"。この大スタンダードも、モンクにかかると独自の曲のように聞こえます。7曲目(私のレコードだと、ここからB面)の "Blue Monk" はB♭のブルースで、私がとても好きな曲です。この曲と次の "Just a Gigolo" は54年のセッションにいったん飛び、再び最後の3曲が52年12月のセッションになります。ただ、CDでは曲順がいろいろになっているので注意してください。さて「ブルー・モンク」ですが、ブルースということもあって、マイルスとやったクリスマスセッションの「バグス・グルーヴ」にかなり近い演奏になっています。パーシー・ヒースとブレイキーがそれぞれ素晴らしいソロを取って、テーマに戻ります。この曲のすばらしさは、モンクの特質と同じく伝統的なものと近代的なものが見事に融合している点です。ニューオリンズ・アンサンブルでやっても違和感がないし、バップでやってもちっともおかしくない、そういう優れた特質を持った曲なわけです。「ジャスト・ア・ジゴロ」はソロ・ピアノ。モンクのロマンティックな資質がよく出ています。

9曲目は "Bemsha Swing"、再び52年12月のセッションです。ここではマックス・ローチが積極的にモンクに絡んで行き大活躍しています。最後の曲は "Reflections"。非常に美しい曲でいくつもの名演奏が残っている曲です。

モンク初期の傑作。

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2007年09月25日

Sonny Rollins: Vol. 2 (Blue Note)

vol2

ブルーノートの名ジャケというと、トップに挙げられるのがこの『ソニー・ロリンズ Vo. 2』です。後にロックのジョー・ジャクソンがこのジャケットをパロディー化したようなアルバムを出して、ジャズに対するアイロニカルなアプローチを試みていることからも、このジャケットの名ジャケ度がわかろうというものです。

joejackson

CD屋の店先でこのジャケットを目にしたときは笑ってしまいました。

ロリンズのほうはブルーを基調とした色合いで、テナーが中心にどーんと構えて、ベルがこちらを向いています。この迫力がいい。『ブルー・トレイン』も名ジャケですが、あのうつむいた感じが後のコルトレーンを髣髴とさせるのに対して、目を上げてあさってのほうを見つめているこの写真は、やはりロリンズの姿勢というかその音楽を上手く表現しているように思えるわけです。ホントは疲れて飴ちゃんで糖分補給しているコルトレーンと、一服して適当な方を向いているロリンズであったとしてもです。まあ、入れ物についてばかり語っていても仕方がないので中身のほうに行きたいと思います。

このアルバムは1957年4月14日のセッションを録音したもので、メンバーはロリンズ、J.J.ジョンソン(tb)、ホレス・シルバー(p)、セロニアス・モンク(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds)です。ピアノが2人いるのは、モンクが特別参加として彼の曲に参加しているからです。タイトルの「Vol.2」は、前年の12月にブルーノートで吹き込まれたアルバムがあるので第二弾という意味でつけられています。ブルーノート時代はこの後、『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』(57年)、『ニュークス・タイム』(58年)で終わりを告げ、コンテンポラリーに吹き込んだあと、ロリンズはヨーロッパに楽旅に出かけ、その後『橋』(1962)での復活まで、有名な「雲隠れ」をするわけです。

A面1曲目はロリンズ・オリジナルの "Why Don't I" で、リフを積み重ねるロリンズらしい曲想のナンバー。ロリンズはまさに全盛時代という感じで、ぶっとくて豪快なテナーで自由なソロを取ります。J.Jのソロも彼らしく端正ながらも力強さがあっていい。ピアノはホレス。独特の粘りのあるタッチのピアノです。また、素晴らしいのがソロの後ろで絶妙な表情の色分けをするブレイキーのドラム。そのあと、ドラムと各楽器が4バースをしていきますが、ロリンズが飛び出しをしてしまいます。しかし、前にもどれかの記事で書いたように、こうした失敗は加点法のジャズではカウントされず、それを上回るエネルギーがある場合は全く問題ないのです。

2曲目 "Wail March" もロリンズ・オリジナル。出だしこそマーチですが、テーマはバップです。しかも急速調。そんなテンポでもサックスのように流麗なソロを取るJ.J.は本当に凄い。ロリンズ、ホレスと素晴らしいソロが続いていきますが、ここでも全体を牽引しているのはブレイキーの熱のこもったドラムです。

3曲目 "Misterioso" は、有名なモンクの曲。6度を基本に飛び上がりながら展開していく3コードのブルースです。テーマが終わって冒頭に出てくるロリンズのソロ。ジャズの魂が感じられる素晴らしい出だしです。モンクとロリンズは相性がよく、バッキングを努めるモンクの上で、他の誰のものでもないロリンズの節を展開しています。この「他の誰でもなく」という修飾語はジャズにおける最大のほめ言葉ですが、その典型がモンクです。モンクが独自のピアノソロを取った後は、J.J.のソロ。ここでバッキングがホレスに代わったようです。ダブル・タイムになった後、お決まりのブルース・フレーズが飛び出します。ホレスのソロもモンクに影響を受けたのか、モンク風のフレーズから始まり、徐々に粘っこいブルースになっていきます。ポールのベースソロを経て、ブレイキーとの4バースに入りますが、ロリンズは「草競馬」の一節を引用したりしてます。A面のハイライトといえる名演奏です。

B面1曲目もモンクの "Reflections"。J.J.とホレスが抜けます。タイトル通り内省的で美しいラインを持った曲です。このカルテット演奏は、お互い(モンクとロリンズ)の個性を充分に引き出していて、名演と呼ぶことができます。また二人の相性の良さを如実に示している演奏でもあります

2曲目はスタンダードの "You Stepped Out of a Dream"。割と速めのテンポで演奏されます。ソロの順はロリンズ→J.J.→ホレス→ポール。ここでも演奏の推力となっているのがブレイキーの激しくも繊細なドラミングで、ロリンズに対しては最初から攻撃的なシンバルやタムの連打を加え、J.J.に対しては彼が吹き上げ始めるまではハイハットとシンバルレガートで抑え、ホレスにはリムショットでおかずをつけるといった配慮を見せています。4バースを経てテーマに戻り演奏を終えます。

3曲目もこれまたスタンダードで "Poor Butterfly"です。この演奏はとても不思議で、ロリンズははじめと終わりにテーマを崩し気味に吹いているだけなんですね。にもかかわらず、ロリンズの楽想の広さというか深みが感じられるわけです。なんというのか、無理にアドリブを数コーラス取らなくても自分の世界が展開できるロリンズの凄みが表れている演奏だと思います。

ジャケだけでなく、中身も超濃い一枚です。

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2007年09月24日

Miles Davis: Four & More (Columbia)

Four and More

音楽の命はテンポだなと思う時があります。たとえばチャーリー・パーカの「ココ」などを(速吹きできないので)ゆっくり吹いていると、驚くほどクラシカルで優雅な展開だということが分かって首を傾げます。何も無理してあのテンポで吹かなくても充分綺麗なのにと疑問に思うわけです。しかし、あのテンポから繰り出される疾走感とか一体感というものがなければ、「ココ」は「ココ」でないし、バドの「インディアナ」も「バドのインディアナ」ではなくなる。テンポと、さらにそこに内在するスピード感によって、狙いとする音楽のテクスチュアリティーが決定してしまうわけです。そういえば『ポピュラー・エリントン』の記事で紹介した、エリントンに対するフランスの批評家アンドレ・オデールによる批判も、要するにエリントンの「コ・コ」(パーカーの「ココ」とは別の曲)のテンポ設定に対する批判でした。クラシック音楽でも、テンポの設定が指揮者ごとの曲に対する解釈の違いを際立たせることがあるように、テンポというものは音楽の本質を握る重要な要素だと思えるわけです。

マイルスのライブ盤『フォア&モア』は1964年2月12日、リンカーン・センターのフィルハーモニック・ホールで行われたライブ録音。メンバーはマイルスのほか、ジョージ・コールマン(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)で、『セヴン・ステップス・トゥー・ヘヴン』の5月セッションに始まるクインテットです。尺の関係で「チョッパヤ」の演奏を選んで編集したものがこの『フォア&モア』、バラード演奏主体に選曲したものが同じコロムビアから出ている『マイ・ファニー・バレンタイン』です。この2枚、どちらがいいかと訊かれれば、まずたいていの人は『フォア&モア』だと答えるぐらいにチョッパヤ曲の高揚感や疾走感は尋常でない。1曲目 "So What" にしても2曲目 "Walkin'" にしてもそれ以前のマイルスによるオリジナル演奏を考えるとまったく別の曲に仕上がっているようで、フシが違うよ、そもそもタイトルが違うよと言いたいほど。「ウォーキン」なんて全然「ウォーキン」じゃないわけです。トニーがとにかく凄い。突っかけ気味に連打することで、演奏自体を前へ前へと押しやっていきます。マイルスは「トニーと演るようになってから、音楽を高域で捉えられるようになった」と『自伝』に書いていますが、たしかにそれまでのような抑制したプレイではなく、高音を連発していきます。またテンポやリズムが自由に変化するのですが、本当に自由だったらしく、「予め決めておいたわけではない」とジョージ・コールマンは述べています。この結果、『カインド・オブ・ブルー』ではまだまだソロ回しに終始していた「ソー・ホワット」などのモード曲が、真の意味で解放され自由なインタープレイを導入することが可能になったわけです。

3曲目の "Joshua" は『セブン・ステップス』でも演奏されたフェルドマンの曲ですが、リズムの変化はますます奔放になり、テンポを自由に動かしながら突き進んでいく演奏に、このグループの実力が表れています。5曲目の "Four" にしても6曲目 "Seven Steps to Heaven" にしても、その疾走感は変わりなく、迫力満点です。

最後の "There Is No Greater Love" だけはスタンダードでテンポもミディアムですが、マイルスの吹き方は以前とは明らかに違って、高域の多用、音の自由な選択、あえて伝統的なフレージングをはずして掻き鳴らすような奏法になっています。ただ唯一変わらないのはトランペットの音色で、『ミュージングス・オブ・マイルス』の "A Gal in Calico" と全く変わっていないことに驚かされます。

完成されたものに安心するのではなく、つねに挑戦し続けるマイルスの姿をよく表したアルバムだと思います。

「あとは全速力で駆け抜けるのみ」 ---ジョン・エフランド

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2007年09月20日

Miles Davis: Milestones (Columbia)

Milestones

『天国への七つの階段』の記事でも書いたとおり、「マイルストーンズ」という曲の大空に広がっていくような解放感が好きです。アルバム名も文字通り『マイルストーンズ』。「里程標 (mile-stones)」と「マイルスのサウンド (miles-tones)」がかかった、洒落のあるネーミングです。58年の吹き込みで、コルトレーン、キャノンボール、ザ・リズムセクションのセクステット編成。

まずジャケットがよい。ペットをしっかり握って、クッとこちらを睨むように「どうだ!」という目つきで写っているマイルスが素晴らしい。彼が新たな一里塚を踏破した自信と、自らのサウンドを確立した確信が現われています。

1曲目 "Dr. Jekyl" はジャッキー・マクリーンの曲。ハード・バップ期に流行った「ペック」という奏法をモチーフにした曲想です。ペックについては、以前の記事で扱っていますが、鳥が啄ばむ(ペック)ような感じの短いリフの積み重ねのことです。これは意外と保守的な演奏。つまりコードを重視した感じです。ところが2曲目 "Sid's Ahead" になると事情は変わります。「ウォーキン」をぱくったようなマイルス作曲のブルースですが、バップのようなブルース演奏を期待していると驚かされます。私自身最初聴いた時はなんだか分かりませんでしたが、何度も聴くうちに、これは「モード」に対する挑戦なんだと分かってきました。調性感を犠牲にしたために、浮遊したような安定感のない、悪くいえば不安を掻き立てるようなソロが続きます。実際にはまだ「モード」そのものではなく、テンションをわざと入れていくようなアプローチなんです。ここでのバックのピアノはマイルスだと言われています。

3曲目の "Two Base Hit" はディジー・ガレスピーの名曲で、ドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズが大活躍しています。そして4曲目、タイトル曲の "Milestones" です。疾走するようなAメロと叙情性すら感じさせるBメロ。先発のキャノンボールは、畢生の名ソロです。続くマイルスのソロも、アルバム裏面の解説にある通り「ビックス・バイダーベック以来、もっとも美しいミュート・ホーン奏者(マイルスのこと)をフィーチャーしている」といえる美しく、はかなさを感じさせる名演。コルトレーンはもう少し行数が長くないとまとまらないかなといった感じです。ピアノのレッド・ガーランドは、まさに彼の限界というべきか、バッキングのつけ方に戸惑っている感じで中途半端です。

このガーランドが「マイルストーンズ」で不完全燃焼の仇を討つ、あるいは憂さを晴らすかのように、ビバップ全開でトリオ演奏をしているのが、5曲目の "Billy Boy"。最後はモンクの名曲 "Straight No Chaser"。ここで、面白いことが分かります。このセッションの途中で、レッド・ガーランドがカンカンに怒って帰ってしまい、そのため2曲目の「シッズ・アヘッド」でマイルスがピアノを弾く羽目になったと『自伝』にありましたが、「ストレイト・ノー・チェイサー」で弾くガーランドのピアノソロの後半は、パーカーの元でやっていた若い頃のマイルスのたどたどしいソロ(『サヴォイ』の「ナウズ・ザ・タイム」)をそのままコピーしたものです。これは嫌味でやったとしか思えません。タッチも乱暴で開き直ったように響きます。1ヶ月前のこの時点ですでに二人のカクシツというかカクチクはあったようです。本当の「喧嘩セッション」は、実はこちらなのです :-P

歴史的名盤『カインド・オブ・ブルー』の直前に聳え立つ名作。比べてみるとずっと不完全ですが、その不完全さとそれゆえの力強さが逆に魅力になる一枚でもあります。

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2007年09月18日

Bill Evans: Waltz for Debby (Prestige)

w4d

ビル・エバンスの来日公演に出かけました。モダン・ジャズにやっと開眼したばかりだったのですが、家族が新聞を見て「ビル・エバンスという人が来るから、聴きに行きな、お金は自分で工面しな」と無茶振りをしたので、手持ちのお金を遣ってチケットを取り寄せ、またいつも行っているレコード屋で「ビル・エバンスって人の代表作を下さい」とアドバイスを貰って『ポートレイト・イン・ジャズ』を買い、それを何度も聴いて予習をした後、勇んで芝の郵便貯金ホールに出かけました。しかし、残念なことにこの日コンサートは中止になっていました。前日にビル・エバンスが急死したからです。代役も立っていたのですが、払い戻しに応ずるというので払い戻しをしてもらい、後日そのお金を遣って購入したのが、Riverside4部作の一枚である『ワルツ・フォー・デビイ』でした。

打ちのめされました。この世にこんな美しいピアノがあるのかと。冒頭の "My Foolish Heart"。曲そのものを知りませんでしたし、何をやっているのかも正直わかりませんでしたが、果てしなく美しく、そして力強い。2曲目の "Waltz for Debby" がこれまたすごい。イン・テンポに入ってポール・モチアンのドラムがシャーシャーと入ってくるところなんか、今聴いてもトリハダ物です。その頃はまだインタープレイの妙味など分からなかったので、ベースはソロに聞き耳を立てていましたが、これもギターのように旋律性が高くて驚きました。そして何がよいといって、クラブの雰囲気がよく出ているところ。私語が後ろのほうで聞こえています。私も含めてたいていの人は、この2曲で打ちのめされます。

3曲目 "Detour Ahead" はぼんやりとした輪郭のテーマ弾きから始まるので、背後の私語やグラスの触れ合う音がよく聞こえて自分もヴィレッジ・ヴァンガードにいるような気持ちになる演奏です。後半になると徐々に盛り上がっていくところも上手い構成です。

B面の "My Romance", "Some Other Time" もこれまでのムードの延長線上にある名演です。最後の曲、マイルスの "Milestones" はアップ・テンポで演奏され、少しムードの方向は違いますが名演です。寺島さんが『チェット・ベイカー・シングス』は一つの組曲で、「ヴァレンタイン」はいわゆる「サマータイム」だと書いていましたが、『ワルツ・フォー・デビイ』にも全く同じことが当てはまります。全体のムードが統一されて、全部で1曲として聴けるわけです。それもそのはずでこのレコードは、ビル・エバンス、スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)のトリオによる、マンハッタンのヴィレッジ・ヴァンガードでのライブを編集したもので、ムードの統一を図った編集がなされているわけです。対になる『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』はもう少しバリエーションがあり、スコット・ラファロとのインタープレイにもさらに焦点が当たっています。録音は61年の6月25日。この直後の7月6日、ラファロが急死することで、このジャズ史上最も重要なトリオの一つはその歴史に終止符を打ちます。

後になって分かったことですが、晩年のエバンスはかなりムズカシ的な演奏をしていたようで、あの時実際にコンサートを聴いて初心者の私が理解できたかどうかは不安です。しかし、それでも生エバンスに会えなかったことは今でも残念でなりません。

CDになってからボーナス・トラックが追加されています。このアルバムは名盤過ぎて、CD・アナログともに音質からジャケットまで様々な付加価値をつけた商品が出回っていますが、下のリンクは近く再発される通常盤です。

posted by G坂 at 10:54| Comment(0) | TrackBack(0) | jazz | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月16日

Miles Davis: Seven Steps to Heaven (Columbia)

Seven Steps to Heaven

"Seven Steps to Heaven"(「天国への7つの階段」)は、てっきりマイルスの作曲だと思っていたら、ヴィクター・フェルドマンの作曲と知って驚きました。マイルスの曲としては "Milestones" と並んで、心が広々と大空に拡大していくような曲想で、特に気に入っていた曲だからです。確かに、「マイルストーンズ」の時点でモーダルな曲になっているのに対して、「天国への七つの階段」はコーダルな曲で、サビなんか三度も転調しています。ライナーのクレジットだけでなく『自伝』にも「フェルドマンの持ってきた曲」と書かれているので気づいたというわけです。

アルバム『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』はこの曲の他、マイルスがスタジオ録音でスタンダード物をやった最後のアルバム、そしてハービー〜ロン〜トニーが一堂に会した最初のレコーディングとして有名です。セッションは2つ。63年の4月と5月のもので、4月はロサンゼルス、5月はニューヨークでの録音です。さらにメンバーが違い、4月はヴィクター・フェルドマン(p)、ロン・カーター(b)、フランク・バトラー(ds)、5月はジョージ・コールマン(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)となります。この2つのセッションを交互に並べているのがこのアルバムです。

1曲目の "Basin Street Blues" は4月。サッチモも吹き込んでいる古い曲ですが、ここでの演奏は新しい。カデンツァから始まって、リズムがインテンポになってコーラスに入ってもなかなかメロディーを出さない。小出しにしている。「あれなんだっけ?」と思っているとフェイクされて、煙に巻かれる。中盤(5分を過ぎたあたり)でやっと丸々メロディーが出てきて納得するという仕掛け。このパターン、実はキースがスタンダーズでよくやっているパターンなのですが、元はマイルスだったんですね。フェルドマンのピアノも快適にスイングし、フランク・バトラーの「古めかしさ」と調和しています。現代若手4ビートが古い曲をやるときのお手本にもなっていそうな名演です。

2曲目の "Seven Steps to Heaven" は5月のセッション。上にも書いたように、広々とした曲想の上をマイルス、ジョージ・コールマン、ハービーがソロを取っていきますが、それを支えているトニーのドラミングがすでに凄いことにも驚かされます。45年生まれですからこの時わずか18歳!この曲、フェルドマンの作曲ということで4月のロス・セッションでも吹き込まれたのですが、ボツになり、改めてこのメンバーで吹き込んだそうです。

3曲目の "I Fall in Love to Easily" は、伝統的というかマイルスによるバラード演奏の典型のようなナンバーですが、プレスティッジ時代よりもずっと音の選択が広がっていて、やはり時代の違いを感じさせます。フェルドマンのソロもマイルスのコンセプトに合わせて新しい感じで弾いています。

4曲目 "So Near, So Far" はかなりてこずったらしく、最初4月のロス・セッションで吹き込んでも上手く行かず、5月のNYセッションで吹き込んだうちのリハーサル・テイクの方。本テイクはやはり間違った音だらけで使い物にならなかったということだそうです。確かにドラムに過重な負担を強いるアレンジですが、トニーがこれをこなしていることに驚かされます。

5曲目の "Baby, Won't You Please Come Home" は20年代からビックス・バイダーベックなどが賑々しく演奏してきた曲ですが、マイルスは最初バラードと間違うばかりにテンポを落としてヴァース(もともとあったのか、マイルスがカデンツァ風に付け加えたのか)から吹き始め、その後もマイルスがライブでよくやるようにテンポを動かしながら演奏を続けていきます。

ラスト曲の "Joshua" もフェルドマンの曲ですが、やはり5月のNYセッションでの吹き込みを採用。激しい転調と4/4から3/4へと変化するなど、トリッキーな難曲ですが、全員自然な演奏を繰り広げています。

このアルバムを丹念に聴いていけば、4月から5月へのたった1ヶ月でマイルスのやりたかったことがより明確化していく過程に気づきます。またヴィクター・フェルドマンという有能なミュージシャンが、ツアーの誘いを断ってくれたためにハービーへと繋がり、最強の第2次黄金カルテットに至ることを考えると、不思議な気持ちになるアルバムです。

posted by G坂 at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | jazz | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Miles Davis: The Musings of Miles (Prestige)

The Musings of Miles

バンドのサウンドをエクスパンドしようと常に努力を続けていたマイルスには、ワン・ホーン物は驚くほど少ない。そのうちの1枚で、全編これワン・ホーンで通したのがここで紹介する『ザ・ミュージングス・オブ・マイルス』です。別名『シャツのマイルス』。マイルスはこのレコーディングの6週間後、ニューポート・ジャズ・フェスティバルの演奏で名声を確立し、コロムビアからのオファーを受け、それがプレスティッジのマラソン・セッション、内緒で吹き込んだ『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』に繋がったことは、関係記事でもろもろ述べてきたとおりです。

このアルバムは1955年6月7日のレコーディング。メンバーはマイルスのほか、レッド・ガーランド(p)、オスカー・ペティフォード(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)で、第一次黄金クインテットの3名が揃っています。ワン・ホーンであるため、マイルスの歌心やトランペティズムが充分に表現されていて、聴いていて楽しくなり強面のマイルスとお近づき出来たような気分になります。

1曲目 "Will You Still Be Mine"。マット・デニスの曲で、トム・アデーア作詞の面白い歌です。「○○(とてもありえないようなこと)があったとしても」というフレーズを積み重ねていき、「それでもあなたは私のものかしら?」と落とす、六難九易のような内容。面白い歌詞なので紹介します。

恋人達が5番街を長々と歩くデートをしなくなっても、
この親しみに満ちた世界が終わりを告げても、
それでもあなたは私のものかしら?

タクシーがセントラル・パークの周りを走らなくなっても、
夏の宵闇に窓が明かりを灯さなくなっても、
愛がその秘密の火花を失ってしまっても、
それでもあなたは私のものかしら?

ハドソン川にかかる月がロマンチックでなくなり、
春が若者の空想を掻きたてる事もなく、

グラマーガールがその魅力を失っても、
サイレンが全て誤報になってしまっても、
恋人達が腕を組む気が失せてしまっても、
それでもあなたは私のものかしら?

コニー・ヘインズがトミー・ドーシー楽団で歌ったバージョンでは、さらに「ありえないこと」を追加して楽しい歌に仕上げています。

さてマイルスもまた、この曲のヒューモラスな面を理解して、軽妙に吹き流していきます。バックのオスカー・ペティフォードが、後のポール・チェンバースとは違って圧倒的な音量でゴンゴンと迫ってくるところも面白い。レッド・ガーランドもシングル・トーンで転がるようなソロを取っています。クインテット編成時に、マイルスはアーマッド・ジャマルに出馬を要請していたのですが、シカゴに安定した仕事を持っていたジャマルに断られ、レッド・ガーランドを迎えたそうです。また、ガーランドはボクサー出身であったので、よくマイルスにスパーリングの相手をさせられていたようです。

2曲目 "I See Your Face before Me" は一転バラード演奏。マイルスはものすごいピアニッシモで抑制されたテーマを吹きます。ピアニッシモが甚だしいので、雑音の多いところで聴いたらマイナス・ワンに聴こえるほどです。そのままレッド・ガーランドのカクテル・スタイルのピアノに移り、後テーマを同じくピアニッシモで吹いて終わります。3曲目はマイルス・オリジナルの "I Didn't"。 "So What" にも匹敵するシンプルなタイトルぶりの循環。フィリーが後半の4バースで張り切ります。

4曲目の "A Gal in Calico" は、その魅力的な演奏でしばしばテレビのBGMにも使われているトラックです。しかしここでのマイルスのミュートは凄い。トランペットでもサブトーンというのでしょうか、下のほうで広がっていく音の魅力が一杯です。晩年に世界ツアーで吹いた「タイム・アフター・タイム」でもこのサブトーンが出ていましたが、全く変わらない音色に驚きます。

5曲目の "Night in Tunisia" は有名なジャズ曲。作曲者のディジー・ガレスピー以来、この曲はハイノートを目一杯に突き上げ、「元気があれば何でも出来る」アントニオ猪木状態で吹くのが伝統ですが、マイルスはやはり抑制感をもたせてハイノートを連発するような体育会系の演奏はしていません。一箇所突き上げるところはありますが、それ以外は旋律を大切にした綺麗なソロです。ガーランドはなんだか早々にブロックコードに入っていますね。そしてここでもバックのオスカーが力強くベースをランニングさせています。フィリーのマイルスの4バースを終え、サビからテーマに戻ります。

6曲目 "Green Haze" は再びマイルスのオリジナル曲、といってもブルースです。この曲は最初にレッド・ガーランドがソロを取り、マイルスが二番手です。途中からダブルになりますが、マイルスのストレートなブルース・プレイもなかなか味がありますね。オスカー・ペティフォードもごつい音でソロを取り、マイルスに戻って終了。

じっくり聴けば聴くほど味の出てくるマイルスのワン・ホーンセッションでした。近々再発されるようです。

posted by G坂 at 00:30| Comment(0) | TrackBack(0) | jazz | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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